7月に開催された東京オリンピック2020の開会式でドローンによる演出があり、大きな話題となりました。
開会式でのドローンを見られて、同じように驚かれたり、今までになかった夜空を背景にした描写、文字や図形を描くドローンは壮観でした。
実際に、あのドローンはどうなっているのか?など開会式の後に聞かれることも多かったのですが、ニュースなどで報じられたようにインテル社が行った自動プログラミングによるショーでした。
このドローン演出について、演出そのものではなく「運用」に焦点を当てて、クリアすべき問題や法律などをどのようにしたのか、ドローンを扱う会社として気になったので調べて考察してみました。
ドローンの機体や性能はどうだったのか?
国立競技場の夜空に飛んだドローン、近くで撮影した人たちのSNSに上がっている動画からはドローン特有のプロペラ音が鳴り響いています。
今回のドローンは、前述の通りインテル社が行っており、平昌オリンピックやアメリカのスーパーボールなどでも使われている同社の「Shooting Star」という名称のドローン技術でした。
自動プログラミング飛行はもちろんですが、飛行したドローンの機体自体もインテル社が開発しているハードからソフトまで網羅されているサービスとなります。
Shooting Starは、PREMIUMとCLASSICと言われる2種類に分かれるようで、当然ですがPREMIUMの方がサービス料金も高く、今回のオリンピック開会式で使われています。
この際のドローンは、重量340グラム。
つまり航空法が適用される重量のドローンとなります。
飛行するには航空法の規定を守ったり、許可を取ることが必要になるわけです。
ちなみに、二つの種類の違いは性能やLEDライトの数の違いで、PREMIUMがLEDライトが4つあるのに対して、CLASSICは1つとなります。
簡単に比較すると以下のようになります。
項目 | PREMIUM | CLASSIC |
飛行時間 | 11分 | 8分 |
LEDライトの数 | 4 | 1 |
重量 | 340グラム | 310グラム |
最大風圧抵抗 | 11m/s | 7m/s |
LEDの数の違いからも、PREMIUMの方が複雑な描写を描くことができるでしょうし、何よりも風圧抵抗が強い方が本番で飛行できるかどうかの決め手にもなりますから、重要です。
面白いのは飛行時間の短さで、11分をまるまると使い切ることは安全性から考えて有り得ないでしょうから、8〜9分くらいが空中に漂っている限界ではないでしょうか?
そうなると、東京オリンピックのロゴマークと地球儀を演出した後に、さらに何かを演出しようとするとバッテリーの問題があったはずですので、着陸して全台数のバッテリー交換が必要となったかと思います。
今回、ドローンは全部で1824台が使われた、と公表されていますから、考えるだけで目眩がする作業です(もちろん大多数で行っているとは思いますが…)
演出内容にもよりますが、異なる演出を複数回行おうとすると、バッテリーの交換か、そもそもドローン本体を入れ替えるなどの作業が発生するはずです。
これは、ドローンの離発着場所の問題にも掛かってっくるので、出来ることと出来ないことがショーのスケジュールによっても変わってくるのではないかな?と考えてしまいます。
なお、風圧抵抗や重量、飛行時間から考えると一般的に販売されているドローンと大きな違いはないかな、という印象です。
それよりも、GPSの補正技術とセンサー類という見えない技術が凄く、これはなかなか真似できないところではないでしょうか。
GPSというのは、そもそも誤差が存在しており状況によって変わりますが1mくらいは誤差が生じてしまいます。
そこで様々な補正技術を持ち寄るのですが、測量などで一般的に活用されているのがGPS高精密測位、と言われる方法で詳細は省きますがこれだとcm単位での誤差に縮まります。
恐らく、基準点と言われるGPS情報を取得するアンテナのようなものを複数設置して、電波のズレなどから誤差を修正していたと思われます。
(参考リンク)
加えて、お互いのドローンの位置情報を共有してぶつからないように制御しながら、センサー類なども活用して適正な位置を保っていたのではないでしょうか?
自動プログラミング技術も、気象状況を考慮して補正するAI技術もあり、複数の技術が使われていたというのが推測できます。
運用面では何が行われていたのか?
次に、このドローン演出を行う上でどのようなオペレーションがあったのか、気になった点を取り上げて実際に運用するまでの大変さを考えてみました。
まず、パイロットですが公に報道されているように1人が通常のパソコンを使って、専用のソフトで飛ばしたとのことなので通常の送信機を持つというイメージではなく、エンターキーを押すだけで離陸から着陸まで行ったのでしょう。
この辺りは想像が容易なところで、ソフトの緻密さ、どのような図形も描写が可能という発言に興味を惹かれる程度です。
そのような状況になっている中で必要な要素をどうクリアしたのか?のも気になります。
航空法上の問題で言えば、以下の点が今回は当たるかと考えられます。
- 人口集中地域
- イベント開催場所
- 夜間飛行
- 30m接近飛行
- 目視外飛行
人口集中地域については包括免許でも取得可能ですが、イベントと夜間飛行のセットは結構苦労するポイントです。
しかし、今回はオリンピックでの飛行ですから申請期間さえ余裕があればクリアはできるかと思います。
ただ、このドローン本体は国交省のウェブサイトに記載されている機体ではありません。
そうなると、まず本体情報を国交省に登録する必要があります。重さやさまざまな情報を事前に登録してから、それぞれの申請が開始となりますので若干の手間があったでしょう。
次に、それに基づいた目視外飛行でパイロットが一人だがソフトウェアで制御できているということを申請時に説明、記載する必要があると考えられます。この過程が少し手間がかかりそうです。
例えば目視外飛行で離れた土地でコントロールしたいという要望があったとします。
そうすると、どのような回線をどのような機器を使って、ドローンまで信号が行き制御しているのか?などを詳細に説明、申請する必要があります。
担当者によって多少の変化はあるかもしれませんが、仕組み全てを含んでの申請となるはずです。
そして、それらの申請に紐づくのが安全監視員の配置です。
特にイベント時の飛行なので、飛行エリアを明確に安全で人がいないということを提示した上で、監視員も配置する必要があるはずです。
これこそ、一人ではなく複数の人がいたかと思われますが、幸いにも飛行させた場所が無人の場所で立入禁止区域と思われるために、1800台超のドローンに対して、実際には10人いるかいないかくらいの人数では?と推測しています(本当の人数は不明ですが)
さて、そのドローンが飛んでいた場所とは、そもそもどこなのでしょうか?
新国立競技場、のように見えて実はその隣りの場所で飛行したのでは?と動画や情報から考えられます。
恐らくその場所は、明治神宮外苑のゴルフ練習場ではないでしょうか。
このゴルフ練習場、オリンピック期間中は休業しています。
その西にオリンピックのモニュメントもあり、スタジアムからちょうど斜めの上空をドローンが飛んでいたことから、飛行できる広大な敷地と、人が立ち入らない無人の地区と考えると野球場か、このゴルフ練習場のどちらかになり、さらに野球場であれば遠すぎて開会式に参加した選手から見えませんのでゴルフ練習場だったと考えるのが妥当です。
ドローンショーの実現
このように、ハードやソフトの根本的な機能がないとできない点もありますが、運用のために法律の許可を取るための手続きを如何に踏んだのか?
そして、運用する際に考慮されて対応していった範囲や内容はどういったものなのか、を考えると開会式の10分に満たないショーに関しても、頭が下がる思いです。
実はリハーサルではピクトグラムも表示されていたようですが(公式に発表されていないので、デマの可能性もありますが)、本番ではありませんでした。
当日の天候にも左右されるために、諸条件が揃わなかったのだろうと思います。
ちなみに、金額は公にされてませんがPREMIUMを活用した場合、500台を使うショーで約3300万円ほどかかり、それ以上は要相談となっていますので、その3倍以上の価格に加えてリハーサル、当日の難易度、イベントの大きさから数億円は掛かっているのではないでしょうか。
何にせよ、また壮大なドローンショーをじっくりと観てみたいですね。
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